水商売ウォッチング:πウォーター

「パイネット」へのコメント(2003/01/31)

【注意】このページの内容は商品の説明ではありません。商品説明中に出てくる水の科学の話について、水・液体の研究者の立場から議論しているものです。製品説明は、議論の最後にある、販売会社のページを見てください。

 パイウォーター関連のを専門に売っているらしい。「πウォーターとは?」を見ると,

ごく微量の二価三価鉄塩に誘導された、人間ばかりでなくすべての生物の細胞内にある生体構成水に近い働きをする水です。

だそうな。まず,この「誘導された」の意味がわからない。具体的にどうすることなんだろうか。「生体構成水」という言い方も,学術用語としてはない。生体を構成する蛋白質などの構造を保つための結合水ならあるが,この場合も水は水分子として蛋白質に結合しているだけである。こういう科学用語モドキを使うのであれば,その意味について,通常の科学用語で説明して定義してくれないと,そもそも話が始まらない。

すなわち、化学反応や酸化還元反応をさせない水なのです。

に至っては,これが本当なら人体に有害じゃないかと疑ってしまう。ヒトの体の中では,常に代謝が行われており,化学反応も酸化還元反応も起きている。この代謝が行われているということが,すなわち,生きているということなのだ。酸化還元反応が起きないと,呼吸もできないことになる。主張していることが真実だとすると,ヒトは生きていけなくなってしまう。

鉄製のものを普通の水に入れておくとさびますが、食べ物の中の鉄分などが体の中に入ってもさびることはありません。

 我々の体内では,鉄分は血液中のヘモグロビンの中に含まれて,酸素運搬に重要な役割を果たしている。鉄は,蛋白質に結合したポルフィリンの鉄錯体の形をとっているが,酸素の吸着と脱着のときには,鉄イオンの酸化還元反応が起きている。鉄の赤錆は,物質としては酸化水酸化鉄であり,体内でこれができないということを「さびない」と表現するのはかまわないが,さびるということに酸化反応が起きるということまで含まれているのなら,上記の記述は誤解を招く。

我々は、外からどんな水が入ってきても生体内で「生体構成水」に切り換えなければ生きていけません。

 この記述だと,「生体構成水」という特別な水が存在するかのように読める。しかし,そういう水が存在するという証拠は今のところ全くない。水はあくまでも水分子として生体内でも機能している。生体内では,体液の組成を一定に保たなければならないから,成分調整のために,水の量がうまく制御されているだけである。たとえば,少量なら,蒸留水を注射して直接血管の中に入れても何の問題もない。体液組成を大きく変えるような水の与え方をすると問題が起きるが,あくまでも体液組成の問題であって,別に,水が特別な「生体構成水」になる必要があるわけではない。

蓮根の中には泥水も悪臭もありません。もちろん、有害菌もいません。これは、蓮根の表皮で「生体構成水」に切り換えているからなのです。

 この蓮根の話では,「生体構成水」存在の根拠にはなっていない。植物にも免疫機能はあって,外部の病原体から身を守ることができる。植物の細胞は,細胞壁と細胞膜で区切られていて,細胞が集まって蓮根を作っている。水の取り込みは分子レベルで行われるので,細胞内に水が入るときに,水に混じった泥や悪臭は,細胞壁や細胞膜を通過できないから,蓮根内に入らないのはあたりまえである。「生体構成水」の存在を主張する前に,植物の生理学でも勉強してはどうか。

 描かれているイラストにも問題がある。生体構成水であれば細胞の中にスムーズに入るがそうでないとエネルギーが必要だという説明図があるが,生物の恒常性の維持を考えるとあり得ない話である。細胞内の水分量は生物の都合で決まっているので,水にスムーズに通られては細胞が困るのだが・・・。細胞に負担をかけない環境を作るのなら,細胞内液と浸透圧を合わせた生理食塩水を使えばいいだけである。その場合でも,水がスムーズに通るわけではない。

 「ACMπウォーターとは?」を見ると,トップに出てくるのが,鯛と金魚が同居する水槽である。別にこれは不思議でも何でもない。すでに書いたように,淡水魚と海水魚の生理食塩水濃度は同じなので,それに合わせた濃度の生理食塩水を作ると,鯛も金魚も同居可能である。別にπウォーターでなければできないことではない。これを理由に「πウォーターにすごい効果がある」と思ったのなら,考え直した方がいい。もちろん,その生理食塩水をπウォーターで作るのは業者の勝手ですが(笑)。

山下博士の研究をもとに塩化鉄=塩化第一鉄(FeCl2)と塩化第二鉄(FeCl3)を配合し

とあるから,要するにπウォーターとは塩化鉄と塩化第二鉄の含まれた水溶液ということなのだろう。薄い水溶液として「この組成だとおいしい」という話なら,それはそれで理解できる。ただし,「生体構成水」とは関係のない話だ。

高機能ACMπウォーターの持つ情報を、セラミックに焼結させたものが「π化セラミック」です。
π化セラミックに水を接触させることで水に情報を転写し、ACMπウォーターを生成します。

 いかなる意味でも水が情報を記憶することはないし,水に情報を転写することも不可能である。水が他の物質の影響を受けて一時的に違う状態になったとしても,そのことは次に別の環境におかれたときの状態に影響しない。この操作で起きそうなことは,セラミックに塩化鉄や塩化第二鉄などが含まれていて,水に浸すとその成分が溶け出すことで,水溶液が変わるということだけである。「情報」を持ちだす必要はまったくない。

 このページの最後に,日刊食料新聞に掲載された記事が出ているのだが,

 〜周囲の反応はいかがでしたか。
木島 学会で発表も行いましたが、パイの理論はいわば物理的な反応。現代の科学では説明できない部分も多く、”結論ありき”の中でなかなか認知されません。この点は、今も難しいと感じています。また、以前は農業分野へは作っても売れない状況で、苦しい日々が続きました。

 と,典型的な疑似科学の論理で書かれている。ウェブページを見たのだが,「パイの理論」はどこにも出ていない。実は,パイウォーターの解説書を書店で眺めたこともあるが,「パイ化した水がいかにすごいか」という説明ばっかりで,そもそも理論の体をなしていなかった。パイネットのウェブページに書かれているのは,存在確認すらない「生体構造水」とパイウォーターが近いという話があっただけである。大体,塩化鉄と塩化第二鉄を入れた水なら水溶液だから,化学的に理解するべきものであって,物理的な反応ではないと思うぞ。「現代の科学では説明できない部分も多く」っていうが,説明を読んだ限りでは,現代の科学を真っ向から否定する内容になっている。特に,「水に情報を転写」のあたりが。

 いずれにしても,パイ化の実体がはっきりしない。畜産関係で効果があるという主張らしいが,効果があることの確認は,確立した試験方法でチェックすればできので,現代の科学の範囲で可能である。ただし,その理由の説明を「パイ化」「物理的な反応」と考えるのは間違っている。塩化鉄と塩化第二鉄の含まれた水が畜産にどういう効果を及ぼすかということについて,現在の化学と生物学の範囲で説明することを考えた方がいい。なお,提唱者の山下博士自身は,パイウォーターの製造方法はまだはっきりわからないと言っていたはずである。

 

 


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