簡単な練習問題
基盤教育の「科学リテラシー(化学A)」では、講義の時に、「食べ物とがん予防 健康情報をどう読むか」(坪野吉孝著、文春新書)のフローチャートを紹介している。
【健康情報の信頼性を評価するためのフローチャート】
ステップ1 具体的な研究にもとづいているか
はい いいえ → それ以上考慮しない(終わり)
↓
ステップ2 研究対象はヒトか
ヒト 動物実験や培養細胞 → 「有害作用」についての研究は、
それなりの注意を払う。
「利益」についての研究は、
人間にあてはまるとは限らない
↓ ので、話半分に聞いておく(終わり)
ステップ3 学会発表か、論文報告か
論文報告 学会発表 → 科学的評価の対象として不十分なので、
↓ 話半分に聞いておく(終わり)
ステップ4 定評ある医学専門誌に掲載された論文か
はい いいえ→ ひまな時に参考にする(終わり)
↓
ステップ5 研究デザインは「無作為割付臨床試験」や
「前向きコホート研究」か
はい いいえ → 重視しない(終わり)
↓
ステップ6 複数の研究で支持されているか
はい いいえ → 判断を留保して、他の研究を待つ(終わり)
↓
結果をとりあえず受けいれる。ただし、将来結果がくつがえる可能性を頭に入れておく。
さて、このチャートを適用できそうな報道があった。
ゲルマニウムに血液の流れを改善する効果
(高知県)13日、高知市で記者会見した高知大学医学部の植田名誉教授などの研究グループによると、ことし6月から5か月の間成人の男女あわせて33人を対象に純度の高いゲルマニウムを使ったネックレス着ける前と、着けてから40分後の血液の流れを測った。その結果、着ける前の測定で血液の流れが悪かった10人すべての血流が善くなったという。高知大学医学部の植田名誉教授は「血液の流れが良くなることで、肩こりや頭痛などの対策に効果が期待できる」と話している。今回の研究結果は、来月兵庫県で開かれる学会で発表される。
[ 11/13 21:54 高知放送]
順に見ていくと、一応研究はしているのでステップ1はクリア。研究対象はヒトなのでステップ2もクリア。ステップ3で、学会発表なので右側に分岐……発表が無事済めばね。結論は「科学的評価の対象として不十分なので、話半分に聞いておく。」
貴重な電波をつかってわざわざ報道するような情報ではないですな。
間違っても、こんなあやふやな情報に基づいてゲルマニウムネックレスを売っても買ってもいけません。
ネックレスをつけるのに悪戦苦闘した結果腕やら肩やらを動かして血液の流れが良くなったりしたんじゃないかというツッコミにこたえるためには、ゲルマニウムじゃないネックレスをつけさせた対照群が必要ではないかと。
Filed under: ニセ科学
ゲルマニウムは、希少な半金属です。
apjさんなら、ゲルマニウム製の窓やプリズムが高価なことをご存知ですよね。
それ以上に、資源の枯渇化が進んでいまして、そのくせ、ゲルマニウムを使う触媒や半導体に、なかなか代わるものがありません。
そんな貴重品をネックレスごときで、浪費してもらいたくないです。
mimonさん、
確かにゲルマニウムは貴重です。ウチでも赤外分光器のATRセルで使ってますが、時々壊れて予算的に痛い思いをしてます。ゲルマそんなに丈夫じゃないので、セルに固定してるとどうしても応力がかかって、端から欠けたりしてそのうちばきっといくんですよ。
ゲルマネックレスって、真面目に作ると勿体ない上に壊れやすそうです。
もう少し、短波長側で使われる、光学塩化ナトリウムなんて、もっとキャシャな上に、湿気に弱いので、「お水」の観察には向きません。
まあ、資源の枯渇だけは、心配しなくて、かまわないのですけれども。