NMRパイプテクターについての相談

 NMRパイプテクターの件で相談があった。

団地の理事長が委任状を使って、勝手に買うことにしましたが、団体裁判でお金を払い戻す方法はないでしょうか?

 この商品の説明が科学としてはナンセンスであり、また、過去に私を脅したことは既に水商売ウォッチングの方に書いた(日本システム企画株式会社よりのクレームとその対策水商売ウォッチングに対するクレームと、法律相談の結果警告文ウォッチング)。私がある程度真面目に法律を勉強しようと思うきっかけになったクレームで、今読み返すと懐かしい。それはともかく、その後もここの宣伝資料はものすごいものが続出したので、と学会年鑑AQUAでもネタにした。売り込みを受けて困惑している方はこれらをご覧下さい。
 それはともかく、この会社はうまいところに目を付けて売り込んでいるので、買ってしまった後で説明に担がれたと気付いても、救済の道が容易ではない。
 この相談者のケースでわかるように、団地の理事長やマンション管理組合の理事長に売り込んでいるので、訪問販売の形式をとっていても、消費者契約法での保護から外れるし(たぶん)、景品表示法の適用も難しいという問題がある。集合住宅に売り込まれた場合、こりゃダメだと思った人は当然「自分の出資分の金返せ」と思うわけだが、それをどうやって実現するかが難しい。また、ダメ判定をした人達が返金を求めれば、信じている人達と正面から法律問題として争うことになる。争う相手は同じ集合住宅の住民ということになるので、人間関係を重視するなら住民を二分して揉めるというのもそれなりに覚悟が必要である。
 マンションやアパートの管理運営を引き受ける方はそれなりに物の道理もわかっており住民にも支持されている方なのだろう。しかし、ニセ科学宣伝への抵抗力が一般の消費者よりもあるかというと、必ずしもそうではない。
 今足りないのは次のようなことである。
(1)形式上は一般消費者扱いではないが力の実態は一般消費者と何ら変わりがない集合住宅の管理担当者を、一般消費者と同じ基準で救済できるようにするための法改正(景表法及び消費者契約法)。
(2)現状の法の枠組みで、出資した金が明らかにヘンな製品に使われた時に出資者が救済される法律構成を弁護士に考えてもらって、実際に訴訟を行い金を回収する下級審裁判例を作る。
(3)(2)を楽に実現するための立法。

 さしあたり、相談者が実行できるのは(2)しかない。そこで、「委託した金が全く同意できないことに使われた場合の救済策については、私は素人なので何とも言えないが、弁護士なら考えてくれるかもしれないので、まずは弁護士に相談するように」という旨回答した。さらに、「もし弁護士に相談して訴訟ということになった場合、宣伝の非科学性を裁判所で立証するための意見書を書くといった協力をする予定はあるので、相談時に弁護士にそのことを伝えてもかまわない」と付け加えた。

 (2)の裁判例が出ればかなり状況は良くなるだろうとは思うのだけど……。