週刊誌チェック

 例のSTAP細胞について、週刊誌の記事をチェックしてみた。小保方さんのプライベートについての下世話な話はどうでもいいので、それ以外で気になったところをいくつかメモしておく。
 まず、週刊文春平成26年3月26日号26ページ。

笹井氏・小保方氏とともに実験の一部を担当し、共著者にも名を連ねる丹羽仁史CDBプロジェクトリーダーは自宅前でこう答えた。「彼女はまともな初期教育を受けず、土台が出来ないうちに、ハーバード、若山さん、笹井さんと転々と渡り歩いた。こういうころとやっちゃダメということを誰も彼女に教えてこなかったのです」

 だったら何でそんな人を採用したのか説明してくれ、という話にしかならないのは当然として、この部分はこれから院進学を考える人にとっての注意事項として読んでほしい。
 一言で言えば、研究でやっていくつもりがあるなら博士号を取得するまでは研究分野を変えるな、ということである。世間では、大学(の学部)で勉強することは役立たないなどと言う人もいるが、大きな間違いで、学部4年間のカリキュラムで積み上げられるものは学生が想像している以上に大きい。その分野で当然知っていなければならない「常識」をたたき込まれる。
 卒業研究だけ指導教員と協力関係にある別の研究室でやることはあり得る。修士以降は別分野に進む、といったことは可能である(試験に受かれば)。それで修了できるのかというと、それなりにできてしまう。なぜなら、一旦修士課程に合格してしまえば、指導教員の指導の通りにやればそれなりに結果が出て修士論文もまとめられるからである。講義はあるが、文献講読が主で、行われている研究に近い内容を狭い範囲でマニアックな内容を知る機会はあっても、学部のカリキュラムのような幅広い知識を身に付ける機会はあまり無い。博士課程も同様で、主に論文を読んで参考にしながら進めていくことになる。そんなふうに過ごして、修士、博士、と実験もやって論文も書けたから自分に知識がある、と思うのは勘違いである。学位をとれたのは指導教員の力でありその力は借り物である。大学院以降で別の分野に進んだ場合は、よほどしっかり別分野の学部の内容を勉強しないと、知っているはずの常識を欠いたまま研究を進めることになり、思わぬところで大間違いをしでかすことになる。
 小保方さんの例だと、早稲田大学理工学部の応用化学科のカリキュラムはhttp://www.waseda-applchem.jp/jp/img/prospective/department/curriculum.jpgで、化学の知識は身につくが、生命化学についてはわずかに生化学があるだけである。これで、分子生物の知識が必要な研究に進むのであれば、生物系の学部のカリキュラムを独習してやっていくしかない。それを怠っていると、新しい実験をするときに、しなくていい失敗や間違ったデータの解釈をしてしまうことになる。
 別分野に飛びつきたくなる誘惑が高まるのは、境界領域の研究テーマが流行している時である。しかしそれは要注意信号でもある。学部からの積み上げを使ってどう切り込めるかという部分をおろそかにして飛びつくと、結局中途半端のままで終わってしまう。
 専門家の「常識」に反することをやって成功する物語は好まれる。しかし、現実はそんなに甘くない。「常識」を無視して進んだ挙げ句、とっくに知られていることを知らなかったために、やるべきチェックを怠ったり、データの解釈を間違えたりして、失敗に終わることの方が圧倒的に多い。

 週刊文春平成26年3月26日号27ページ。
科学部記者の話として、

理研側から『iPS以外の万能細胞の作り方を樹立したから会見をする』という話があり、

「会見後、記者団がグループごとに分かれて実験室で取材、撮影をする『割烹着セッション』が一時間以上あったのです」

 理研の広報か、あるいは広報を動かせる立場の人が仕組まなければ割烹着報道は無かったということになる。

 週刊新潮平成26年3月26日号30ページ。
 理研の関係者の証言として、

実は彼女、実験ノートもきちんと取っていないので、記録の多くがちゃんとした形で残っていないのです。実験ノートを開いても必要なものをすべては記述せず、さらには実験で使った細胞切片もすぐに捨ててしまうと言います。

小保方さんは、実験ノートをとったりとらなかったりで、きちんと整理していないから、生データと実験ノートを迅速に照合できず、調査に異様に時間がかかっているのでしょう

とある。装置や試薬の使用記録からある程度は何が行われていたか追跡できるだろうけど、検証にえらく手間がかかりそうではある。