いきなりこんなメールが送りつけられてきた。
Delivered-To: apj@atom.phys.ocha.ac.jp
From: "真理の会 事務局長 柳 健宏" <info2003@ggm.to>
To: 各位様 <info2003@ggm.to>
Subject: ◆◆ 地球規模の間違い!! ◆◆
Date: Mon, 17 Feb 2003 15:30:49 +0900
X-Priority: 3
「真理の会」事務局の柳 健宏と申します。
はじめての方は失礼致します。
学問上の問題点で重要なお知らせです。お読み頂ければ幸いです。
◆◆ 地球規模の間違い!! ◆◆
アインシュタインをはじめ、学者達が皆「速度=距離/時間」の分数に関する間違いを犯していました。詳細はホームページhttp://www.ggm.toの意見欄(大学の学問の自由と義務)をご覧ください。なお、これが迷惑メールの類に当てはまらない理由も書いておりますので、よろしくお願い致します。
真理の会 事務局長 柳 健宏
2003年2月14日
例によって,マイケルソン・モーレーの実験が間違ってることを理由にして相対論を否定するパターンなんだが,それ以外に問題がありすぎる。「迷惑メールの類に当てはまらない理由」ってあーた,全然関係のないところにメールを無差別に送る行為は内容の如何を問わずspamといってネット上では迷惑行為なんだけど。てことで,相対論以前にインターネットのルールの理解を間違えているのは明白だな。
ホームページを見ると,fj.sci.physicsでの論争(?)が記載されているし,そこで標的(?)になっているのは,理論物理を教えているとか,ホームページに相対論の解説があるとか,とにかくそういう人達ばかりである。ウチは相対論については何も書いてないし,大体普段研究していても相対論を使うこともないので,どうしてこんなメールがウチに来たのかが謎である。冨永教授の講義内容だって,ちょっと前までは電磁気学で今は熱力学。私は水の化学物理とかマイクロ波の講演しかしてないしな。真理の会に目をつけられるような覚えがないんだが,一体どういう名簿を使って送っているのだろうか。
相対論批判の方は,既にfjの常連(?)の物理関係者がが既に山ほどツッコミを入れてるというかあしらってるというかな状態なので,私は相対論以外の部分につっこむことにした。っつーか,「相対論は間違ってる」系の人は結構多くて,それにいちいちどこで間違ったかチェックを入れたがるマニアの数も多いので,いまさら私が同じことをしても目新しいものは書けないと思うんでね。
柳様
At 15:30 +0900 2003.02.17, 真理の会 事務局長 柳 健宏 wrote:
>自由と義務)をご覧ください。なお、これが迷惑メールの類に当てはまらない理由も書いておりますので、よろしくお願い致します。
理由の如何を問わず,不特定多数にspamを送った時点で充分迷惑メールです。そのようなメールのサブジェクトには「未承諾広告※」とつけてください。営利を目的としていなくても広告メールであることに変わりはありません。
柳様の相対論については既に別の方からの反論があった様子ですので私はそれ以外の点についてに何点か意見させていただきます。
まず,教育基本法第10条の
「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。」
ですが,わざわざこれを書いておられるということは,柳様のおっしゃる内容の理論を大学が取り上げないことがこの条文に抵触するとお考えなのでしょうか?
だとすると,大学が柳様の相対論解釈ではなく別の正しいと考える相対論解釈を公表していることは,少なくともそれを真実であると大学側は考えているわけですから「国民全体に対し直接に責任を負って」いることになります。
すると,残る可能性しては,「不当な支配に服することなく」に抵触するというものですが,さて,*誰がどんな不当な支配をしたために*,柳様の解釈の相対論が大学で取り上げられないとお考えなんでしょうか?
憲法12条を用いて合憲か否かの判定を行う場合は,具体的な基本的人権制約に合理性があるかどうかについて,それぞれの基本的人権の性質や制約の目的,程度に応じて具体的に検討すべきであるというのが,現在の学説です。
そうすると,今回の相対論についてどの解釈をとるかという問題について,誰のどういう種類の人権を制約することが12条の適用で正当化されるとお考えなのでしょうか?
憲法12条は単なる訓示規定ではなく,比較考量論によって公共の福祉を理由とした人権制限が合理的か否かを判定するときに使われるというのが近時の判例のはずです。
なお,憲法16条の請願権ですが,
「請願とは国政に関する事項につき希望をのべること」です。
もともと,言論の自由が確立していない時代に,君主の恩恵に期待してその救済を請い願うことに由来します。今では参政権があるので,請願権の重要性は相対的に現象しています。が,立法不作為における作為義務の認定の際には,請願があったことがありながら放置したという事情が影響することがあります。
国立大学は,国政を司っているわけではなく,文部科学省管轄の行政執行機関に過ぎませんから,16条で請願されてもどうにもなりません。
柳様は,
「外力により大学が歪曲させられた事実を伝えることと、大学自身が歪曲した事実を伝えることは、国民に対しては同じである。」
と書いておられますが,この2つは同じではありません。情を知って虚偽を述べることと,真実と誤認したことでは,国民に対していかなる責任を果たしたかという点で大きな違いがあります。
大学の責任を考えた場合,故意と過失では問われる責任が異なるのは当然のことです。
さらに,柳様は,
「学問の発展(公共の福祉)*を目指し、大学の現象事実の歪曲や隠蔽(違法行為)の可能性を指摘するものである。」
とウェブページに書いておられます。
が,「公共の福祉」と「学問の自由」は別の概念ですから,同じであると考えることには無理があります。
公共の福祉とは,既に述べたように,基本的人権を制約する根拠となるものです。一方,学問の自由は,学問が,個人の人格向上の価値のほか,人類の文化に貢献するという社会的価値をもつことと,学問は真理を追求するので体制批判も生じやすく,公権力の介入からの保護が必要であることから,特に保証規定をおいたものです。
このように,両者の概念は全く別ですから,同一視することには問題があると考えます。
まあ,言論の自由が保障されているから,柳氏にも「相対性理論は間違っている」と言いまくる自由はあるわけだし。そう言ったことで,差別的待遇を受けたり弾圧されたりするわけでもないし。
柳氏は「大学が不当な圧力(あるいは支配)を受けたことで(柳氏からみて間違ってる)相対論を教えている」と思いこんでいるらしいんだが,じゃあその「圧力」って何だろうというのが疑問。正確に言うと,柳氏が,何を圧力だと思っているかのかが疑問なんだけど。いずれにしても,柳氏説が受け入れられないのが不当な圧力によるものだという主張なら,大学の物理学科に文句を言ってもしょうがなくて,文句は監督官庁の文部科学省に言うしかないんじゃないの。あるいはその「圧力」をかけている(と柳氏が思っている)奴に言うとかさ。そうでないと整合性がとれないんだよね。「圧力」を柳氏が立証できなきゃ,大学は自発的に柳氏説じゃない相対論を教えているわけだから,柳氏が「圧力だ」と主張した部分は単なる言いがかりになってしまう。柳氏にはぜひとも相対論に続いて圧力の正体に関する陰謀説でも展開していただきたいところ。
法律や憲法の条文引いてる所を見ると,柳氏は,大学が柳氏説をとりいれないのは法律違反だと思ってるらしい。それならそれで,自説を主張する先はネットニュースじゃなくて裁判所じゃないかと思うが・・・。
柳氏の相対論の理解そのものが間違ってるのは明白だけど,相対論以外の部分も思いっきり間違ってると思われ。話の整合性がとれてるかどうかというチェックがそもそもできないから,相対論の理解も間違えたということなのかな。
ま,spamで迷惑掛けられっぱなしが嫌だったんでネタにしてみた次第。