TDRの計算式の導出
時間領域での誘電率測定は1969年にHugo Fellner-Feldeggによってアルキルアルコールを対象に行われた[1]。この実験で使用された測定装置は、パルスジェネレータとサンプリングヘッド、オシロスコープのみからなる簡単なもので、同軸ケーブルの先端部分に絶縁体の代わりにサンプルを入れて開放端とし、反射波の波形の時間領域の解析から静的誘電率と高周波極限での誘電率および緩和時間を得ている。同様の測定装置で同軸型のサンプルセルを用い終端を短絡して、S11およびS22の時間変化から透磁率μと誘電率εの周波数依存性を得ることができる[2]。
反射波形の時間領域および周波数領域での解析とディファレンス法は、Coleによって定式化された[3,4,5]。ここでは、Mashimoらによって提案された式を伝送線理論から導く[6,7,8,9]。
伝送線の一部分の等価回路は図1のようになる。ここで、インダクタンスをL、直列抵抗をR、容量コンダクタンスをC、並列コンダクタンスをGとする。またxにおける電圧、電流をそれぞれV、Iとし、x+dxにおける電圧、電流をそれぞれV+dV、I+dIとする。また、電源電圧は周波数ωで変化しているとする。I、Vは、それぞれ周波数ωの関数であるが、計算式を簡単にするためにいちいちI(ω)、V(ω)とは書かないことにする。以下の式は、あるωに対して成り立っている計算であるとする。dVはインダクタンスと直列抵抗による電圧降下だから、Z=R+jωLとすると、
dIは、容量とコンダクタンスによる分流効果で、Y=G+jωCとすると,
これより、
両辺をxで微分し、
(5)に(4)を代入し、(6)に(3)を代入すると
ここで、とおいた。このγを伝搬定数(propergation constant)と呼ぶ。γ = α + jβとするとき、αを減衰定数(attenuation constant)、βを位相定数(phase constant)と呼ぶ。(7)の一般解は、
となる。これを(3)に代入し、
を得る。第1項は、電源から負荷に入る進行波(incident wave)、第2項は負荷で反射されて伝送線路に入る進行波(reflected wave)をあらわす。ここでは伝送線路の特性インピーダンスである。A、Bはx=0での進行波の電圧に等しい。これらの電圧をVi、Vrとする。位置x=0(電源側)での電圧と電流は、
今、伝送線が無損失であると仮定すると、α=0だから、位置xでの電圧と電流は、
x=dでは、LoadのインピーダンスをZとすると、同様の計算により、
逆に、V(0)、I(0)をV(d)、I(d)で書くと、
を得る。また、であるが、無損失の場合はR=0かつG=0なので、となる。
ここで、内径a、外径bの導体の間が誘電率ε*の誘電体で満たされている同軸伝送線を考える。この伝送線の単位長さあたりのインダクタンスは、
単位長さあたりのキャパシタンスは、
従って
となる。
x=0でのアドミッタンスY0、x=dでのアドミッタンスYdとする。
終端x=dが開放端であるときI(d)=0よりYd=0となる。これと、(12)および(13)から、
真空のキャパシタンスと同軸のキャパシタンスの比γ= Ccell/Cvacuumを定義すると、
これを(24)に代入して整理すると
さらに、とおき、(22)を用いて書き直すと、
ただしここで、f(z) = z cot(z)とおいた。誘電率を測定可能量である入射波と反射波を用いて表すことができたので、原理的にはこれで未知試料の誘電率を求めることができるはずである。しかし、入射波Viを直接測定するのは実験上困難である。そこで、標準サンプルと未知試料に対して測定を行うことにしよう。それぞれに対して同様の式が成り立つ。
この式では、それぞれの変数達が周波数ωの関数であることをあらわに書いた。2つの式からViを消去すると、以下の式となる。
これによって誘電率が既知である試料をリファレンスとして測定すれば、入射波を直接測定しなくても未知試料の誘電率を求められることがわかる。ただし、測定データは時間の関数であるが、(30)の反射波は周波数の関数である。従って、測定したデータをフーリエ変換してから計算する必要がある。
さらにGHz領域の誘電緩和を正確に測定する方法に、bilnear法がある[10,11]。誘電率のわかっている標準試料を測定すると、測定結果は測定系の特性やノイズなどによる誤差を含んだ値になる。実際の誘電率ε*(ω)と測定によって得られた誘電率ε*exp(ω)の間には、
の関係が成り立つ。ここで、A*(ω)、B*(ω)は系の特性やノイズを含んだ複素スペクトルである。
誘電率のわかっている標準試料ε*1(ω)、ε*2(ω)を測定した結果をそれぞれε*exp1(ω)、ε*exp2(ω)とすると、
と表せる。これを逆に解いて、
により、A*(ω)、B*(ω)の値が得られる。これらを未知試料の測定値とともに式(31)に代入することで、より正確な誘電率を得ることができる。
参考文献
- H. Fellner-Feldegg, J. Phys. Chem. 73, 616(1969).
- A. M. Nicolson and G. F. Ross, IEEE Trans. Instrum. Meas. IM-19, 377(1970).
- R. H. Cole, J. Phys. Chem. 79, 1459(1975).
- R. H. Cole, J. Phys. Chem. 79, 1469(1975).
- R. H. Cole, S. Mashimo, and I. Paul Winsor, J. Phys. Chem. 79, 1459(1980).
- . MASHIMO, T. UMEHARA, T. OTA, S. KUWABARA, N. SHIYASHIKI, and S. YAGIHARA, J. Mol. Liq. 36, 135(1987).
- S. Mashimo, T. Ota, and N. Shinyashiki, Macromolecules 22, 1285(1989).
- S. Mashimo, T. Umehara, S. Kuwabara, and S. Yagihara, J. Phys. Chem. 93, 4963(1989)
- S. Kuwabara, T. Umehara, S. Mashimo, and S. Yagihara, J. Phys. Chem. 92, 4839(1988).
- R. H. Cole, IEEE Trans. Instrum. Meas. IM-32 , 42(1983).
- J. G. Berberian and R. H. Cole, J. Chem. Phys. 84, 6921(1986).
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