タイトル | 水の分子工学 |
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著者/訳者 | 上平 恒 |
出版社 | 講談社サイエンティフィク |
出版年 | 1998 |
定価 | 4800円+消費税 |
ISBN | 4-06-153378-9 |
水と水溶液について、これまでにわかっていることが非常によくまとまっている。1章で液体一般について簡単に述べたあと、2章で測定法と計算機実験の方法について解説している。3章は回折実験に基づく水の構造と、水の熱力学的性質について、4章で無機イオン水溶液の性質についてまとめている。その他に、有機イオン水溶液、アルコール水溶液、超臨界水についてそれぞれ1章ずつさいている。巻末に詳しい参考文献リストがついており、検索に便利である。 この本の99頁から103頁を見れば、水の17O-NMRの線幅がpHに依存することがしっかり書いてある。線幅とH-O結合定数から計算される緩和時間からはプロトン交換速度が求められる。これらの値は、水の空間的な状態の指標にはならない。 水の空間的な情報を得るのはX線や中性子による回折実験によらなければならない。液体はそもそも不規則な構造なので、ある分子に注目したときに隣の分子がどの程度離れたところに平均何個存在するか、という動径分布関数の形で考えることになる。 水のクラスターについては76頁に説明がある。といっても液体状態でのクラスターの話ではない。圧力差を作って水を噴出させ、水分子数個からなるクラスターを独立に作って、分子がどういう運動をしているか観測し、そこから相互作用ポテンシャルの情報を得る。 水の性質や、回折実験の結果を説明するために、水の構造モデルがこれまでに提案されている。71頁にまとまっているが、
いずれのモデルも水の動径分布関数を再現するが、パラメータによる調整が必要であり、モデルが正しいという保証にならない。 最近では、水の過冷却状態での異常を説明するために、「水の第二臨界点仮説」が提唱されている。これは、過冷却状態において水がlow-density liquidおよびhigh-density liquidの2つの状態が存在し、一次の相転移によって状態を変える。さらに、その一次相転移に臨界点があるというものである。しかし臨界点が存在するはずの領域では水は氷になってしまうため、まだ実験で直接確認されていない。 水のクラスターは、周りが気体であるところにつくるもの以外は、実験的に確認されていない。液体に関しては、あくまでも水の性質を説明する1つのモデルとして提案されているだけである。そして、水の状態を完全に説明するモデルはまだない。計算機実験によって、液体の水分子の配置がすべて求められる場合でも、水のクラスターの定義は複数ありうる。水に何か溶かしたら、クラスターが定義できたならば、純水とは異なった状態になるはずである。 この本をちゃんと読めば、水商売ウォッチングで紹介しているような、水の活性化や水のクラスターサイズという概念がいかに曖昧なものであるか十分わかると思う。 |