タイトル | クラスター 新物質・ナノ工学のキーテクノロジー |
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著者/訳者 | 茅 幸二 ・ 西 信之 |
出版社 | 産業図書 |
出版年 | 1994 |
定価 | 1700円+税 |
ISBN | 4-7828-3552-3 |
分子や原子の数が数個から数十個程度の微小な粒(クラスター)の性質について解説している。この本で取り扱っているクラスターは、気相中に微小な固まりとして存在し、質量分析などで実際に測定できるものである。よく巷で言われているような、液体状態でのクラスターの話とは根本的に違っており、曖昧さの入る余地はない。 液体の場合はジェットを作って真空中に吹き出させ、さらに断熱膨張で液滴を破砕する。水とアルコールの混合物などの場合は、断熱膨張直前のミクロな混合状態が凍結した状態でクラスターになるので、クラスターの組成を調べることで、ミクロスコピックな混合状態の情報を得ることができる。 「クラスター」といったときに、現在科学の分野で認知されているのは、例えばこの本に書かれているような、質量分析などの測定対象になるものだけである。それ以外の、液体状態での話は単なるモデルに過ぎない。 ただし、7章9節の「水割り」の話は、ちょっと書きすぎではないかと思う。酒の熟成とクラスターの話にはまだ曖昧な点が多いので、この部分はあくまでも希望的観測として読むべきである。これを読んで「既に専門家がクラスターの大きさと酒の熟成の関係を解明した」などと勘違いしてはいけない。この話が真実かどうかを確認するには、実際に、アルコールと水とその他の成分を混合した液体を作って寝かせておいて、定期的にクラスターの質量分析でもして、測定結果が系統的に変わることを検証しなければならないと思う。同じ記述は、まえがきの、「味と会合度(クラスターのサイズと構造)に関係があることも明らかにされつつある」についても同様である。 また、「第4章 炭素クラスターC60の発見」という表現には異論がある。サッカーボール分子C60をクラスターと呼ぶのは、まだ広く認められていない。あくまでも、「分子」というのが正しいと思う。6章2節では、クラスレート化合物について述べているが、一般に、クラスレートのゲスト分子を取り囲む水分子のかご状構造を「クラスター」とは呼ばない。8章4節の、酵素の活性中心に金属が配位している場合も、金属部分を「クラスター」とは呼ばないと思う。そういう分子を「錯体」と呼ぶか、そういう部位を「活性中心」と呼ぶか、どちらかである。 |