タイトル | 水とはなにか ミクロに見たそのふるまい |
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著者/訳者 | 上平 恒 |
出版社 | 講談社ブルーバックス |
出版年 | 1977 |
定価 | 820 |
ISBN | 4-06-117935-7 |
水そのものの性質と、水と生体とのかかわりが、この本のテーマである。 書かれたのは1977年と古いが、読んで内容の古さを全く感じない。それだけ、よく研究され確かめられた基本的なことを書いている。 1章では、気体・液体・固体の性質がまとめられている。ここを読めば、液体とはどういう状態なのか、気体や固体と比べてどういう特徴があるのかがわかる。ここに書かれている描像を知っておけば、巷の水商売関係で述べられている水の状態がいかに液体の研究の現状を無視しているかがわかるだろう。 2章では、水の構造についてまとめられている。水は他の液体に比べて特異な物理化学的性質を持っていることと、それが何によるものかが、研究成果をふまえて書かれている。水の構造とは、あくまでもある時間しか持続しない動的なものであることが示されている。この章の内容から進歩があった主な話は、コンピュータの進歩により水の分子動力学計算の成果が増えたことと、氷の研究から水の第二臨界点仮説が提案されていることである。それ以外にも個別の研究成果はあるが、書かれている内容を覆す話は出てきていない。 3章では水溶液を作ったときの水の動的構造が、4章では水と界面の相互作用がまとめられている。お酒につながるアルコール水溶液の話は3章で紹介されているが、あくまでも混合状態の動的な変化によって議論しており、クラスターの話は出てこない。同じ著者の最近の本「水の分子工学」でもこれは変わっていない。界面の水の話を導入部分とし、この本の後半は水と生体のかかわりがまとめられている。生体を作っている蛋白質や膜は水無しではその構造を維持できず機能も発揮できないという基本的な話が出ている。 7章の麻酔と温度のところでは、生物にとって15,30,45,60度は好ましくない温度だという話が紹介されている。これがどこまで成り立つか、またなぜこの温度なのかは未だに未解決である。この温度は、2枚のガラス板に純水をはさんで分離させるときの分離圧が極大を示す温度とだいたい一致している。この話がきっかけで、何か水の動的構造が変わっていないか調べようと思って、冨永研究室で水の研究を始めた。残念なことに、ラマン散乱の実験からはこれらの温度で特異なことは観測されず、唯一30度で水の分子間伸縮振動が見えなくなるということが、遠赤外吸収の結果とあわせて出ただけだった。それでも水の動的構造と生体の機能が結びついているというのは夢のある話である。分子の静的な構造や存在量だけを考えるのではなく、運動も機能に関与しているということになれば、物理学の立場から生物を理解するという研究が進むに違いない。 これほどまとまった話があるのに、巷の水処理・水製造法と健康に関する本では、全く無視されているのはちょっと納得がいかない。 |