活性酸素を含むフリーラジカルの解説書。少ないページ数で非常によくまとまっている。フリーラジカルとは何か、どうやって出来るのか、生体にとってどんな役割があるのか、測定法などが、まんべんなく書いてある。
これを読むと、巷の健康書がスローガンのようにしている「活性酸素は万病の元」といった単純な切り口では、活性酸素を理解することなどとても無理だとはっきりわかる。個別の反応の詳細にまで立ち入らないと、正しい理解には至らない。
とても内容が豊富なので、目次を引用しておく。
1章 ウミホタルはなぜ光る
1.1 光る生き物と酸素
1.2 生体防御反応としての発光
1.3 酸素による光と色の変化
1.4 ルミノール発光
2章 活性酸素・フリーラジカルを知るためのキーワード
2.1 活性酸素・フリーラジカルと酸素
2.2 酸素はなぜ必要か
2.3 大気中、淡水、海水中の酸素量
2.4 酸素の毒性
2.5 活性酸素・フリーラジカルとは何か
2.5.1 活性酸素とフリーラジカル
2.6 分解反応と酸化還元電位
2.7 フリーラジカル研究のあゆみv 2.8 活性酸素研究のあゆみ
2.9 活性酸素とフリーラジカルの性質
2.9.1 酸素
2.9.2 スーパーオキシドとヒドロペルオキシラジカル
2.9.3 ヒドロキシルラジカル
2.9.4 過酸化水素
2.9.5 一重項酸素
2.9.6 窒素化合物
2.9.7 一酸化窒素の生成系と生体作用
3章 生命を維持するためになくてはならない活性酸素・フリーラジカル
3.1 細胞の成り立ち
3.2 呼吸とエネルギー
3.3 物質と電位
3.4 からだと酸化還元反応
3.5 抗酸化反応機構とは
4章 活性酸素・フリーラジカルの発生とコントロールシステム
4.1 細胞内で発生する活性酸素・フリーラジカル
4.2 酵素反応で発生する活性酸素・フリーラジカル
4.2.1 虚血−再灌流傷害と活性酸素・フリーラジカル
4.3 食細胞からの活性酸素・フリーラジカル産生
4.4 過剰な生体防御反応
4.5 炎症反応
4.6 活性酸素・フリーラジカルのコントロールシステム
4.6.1 組織中の活性酸素・フリーラジカルコントロール
4.6.2 ヘモグロビンと活性酸素・フリーラジカル
5章 環境汚染と活性酸素・フリーラジカル
5.1 オゾンホール
5.2 除草剤
5.3 ダイオキシン
5.4 重金属による汚染
5.5 酸性雨
5.6 地球温暖化
6章 活性酸素・フリーラジカルと病気
6.1 糖尿病
6.2 がん
6.3 心筋梗塞と脳梗塞
6.4 日焼け、しわとしみ
6.5 老化
6.6 アレルギーとリウマチ疾患
6.7 未熟児網膜症と白内障
6.8 パーキンソン病
6.9 消化器疾患
6.9.1 胃
6.9.2 腸
6.9.3 膵臓
6.9.4 肝臓
6.10 痴呆
7章 病気の治療と薬
7.1 活性酸素・フリーラジカルを発生させる薬剤や治療法
7.1.1 抗がん剤
7.1.2 放射線
7.1.3 温熱療法
7.1.4 一酸化窒素
7.1.5 cGMP不活性化酵素阻害剤
7.2活性酸素・フリーラジカルを消去・抑制する薬剤
7.2.1 エブセレン
7.2.2 亜鉛−カルシノン錯体
7.2.3 レバミピド
7.2.4 プロブコール
8章 抗酸化物質とは何か
8.1 酵素
8.1.1 スーパーオキシドジスムターゼ
8.1.2 カタラーゼ
8.1.3 グルタチオンペルオキシターゼ
8.2 抗酸化ビタミンおよびビタミン様作用物質
8.2.1 水溶性抗酸化ビタミン
8.2.2 脂溶性抗酸化ビタミン
8.3 脂溶性低分子化合物
8.3.1 ビリルビン
8.4 水溶性低分子化合物
8.4.1 グルタチオン
8.4.2 尿酸
9章 食品と活性酸素・フリーラジカル
9.1 食品中の抗酸化物質
9.1.1 ゴマ
9.1.2 ハーブ
9.1.3 豆類
9.1.4 ターメリック・ショウガ・コショウ
9.1.5 緑黄色野菜
9.2 飲み物
9.1.1 緑茶、ウーロン茶、紅茶
9.1.2 ココア
9.1.3 ワイン
9.1.4 トマトジュース
10章 暮らしと活性酸素・フリーラジカル
10.1 銀製品
10.2 化粧品
10.3 殺菌・脱色
10.4 水処理
10.5 紫外線・放射線殺菌
10.6 抗菌繊維・プラスチック
10.7 脱酸素剤・真空パック
10.8 日光消毒
10.9 茶とカテキン類
11章 活性酸素・フリーラジカルを測る
11.1 活性酸素・フリーラジカルを分析する装置
11.2 活性酸素・フリーラジカルの分析原理
11.2.1 光分光法
11.2.2 磁気検出法
11.2.3 光量子検出法
11.2.4 活性酸素・フリーラジカルの測定法
11.3 活性酸素・フリーラジカル測定の実際と問題点
11.3.1 酸素分子の測定
11.3.2 スーパーオキシドの測定
11.3.3 ヒドロキシラジカルの測定
11.3.4 過酸化水素の測定
11.3.5 一重項酸素の測定
11.3.6 一酸化窒素の測定
あとがき
索引
引用文献リストがついてないのが非常に惜しい。
注意してほしいことは、還元電解水については全く触れられていないことと、還元電解水の宣伝で活性酸素除去効果の指標のように言われる酸化還元電位は11章の測定法には全く出てこないことである。逆に、この本の11章に出てくるような測定法を使って、還元電解水の活性酸素除去効果をちゃんと観測したという話を、私はこれまでに見たことがない。ともかくこの本によって、活性酸素の正しい測定方法が広まってくれれば、酸化還元電位だけで議論している話はいずれ消えると思われる。また、既に確立している測定法で効果が確認されない限り、分析化学の人たちは、電解還元水の活性酸素除去効果を認めることはないと考えられる。ぜひ、巷のアルカリイオン水の宣伝と読み比べてみてほしい。本物のサイエンスの持つ内容の豊かさを感じてもらえるはずである。
ただし、15ページの
不対電子は自然環境下で回転しているので、磁石のように磁化を帯びます。
だけは困る。電子スピンは物理量で、古典的な回転運動には対応していない。初学者向けの説明として書いたのだろうけれど....。
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